東京地方裁判所 昭和43年(ワ)10062号 判決 1970年5月13日
原告
早川辰一
ほか一名
被告
後藤釣
主文
一、被告は、原告早川辰一に対し金四四万〇二二五円およびこれに対する昭和四三年九月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告早川富美恵に対し金四〇万五二二五円およびこれに対する昭和四三年九月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。
二、原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三、訴訟費用は、これを二〇分し、その一七を原告らの、その余を被告の、各負担とする。
四、この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一、当事者双方の申立
一、原告ら
1 被告は、原告早川辰一に対し金二九〇万三四二二円およびこの内金二六三万九四七五円に対する昭和四三年九月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告早川富美恵に対し金二八四万四六〇九円およびこの内金二五八万六〇〇九円に対する右同日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言を求める。
二、被告
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告らの負担とする。
との判決を求める。
第二、当事者間に争いのない事実
一、訴外早川恒子は、昭和四三年三月二四日午後二時四〇分頃、東京都足立区下沼田町二五八番地先路上を横断歩行中、訴外岩崎敏夫運転の軽四輪自動車(六足立九七一六号、以下「加害車」という。)に接触し、頭蓋亀裂骨折等の傷害を蒙り、そのため同月二九日午後一〇時二五分頃死亡するにいたつた。
二、本件事故現場の道路は歩車道の区別がなく、かつ右事故発生当時、加害車の対面信号の現示は青であり、訴外恒子は赤信号により連続して停止中の対向車の間から加害車の進路に進出して加害車と接触した。
三、被告は、本件事故当時加害車を業務上使用し自己のため運行の用に供していたものである。
第三、争点
一、原告らの主張
1 (責任原因)よつて、被告は本件事故により原告らに生じた損害を賠償すべき義務がある。
2 (損害)
(一) 原告早川辰一の財産的損害
(1) 訴外早川恒子の入院中の雑費 金五万〇六六六円
(2) 同遺体運搬費 金四万円
(3) 同葬儀費用 金三〇万円
(4) 休業損害 金一万六八〇〇円
同原告は、本件事故当時住所地において農業を営み、一日金一二〇〇円の収入を挙げていたものであるが、本件事故により、訴外恒子の入院中の付添、葬儀執行のため一四日間にわたる休業を余儀なくされ、合計金一万六八〇〇円の得べかりし利益を喪失した。
(二) 原告早川富美恵の財産的損害
休業損害 金一万四〇〇〇円
同原告も、原告早川辰一と同様農業を営み、一日金一〇〇〇円の利益を挙げていたのであるが、右原告と同一の理由により一四日間休業を余儀なくされて金一万四〇〇〇円の得べかりし利益を喪失した。
(三) 原告らの慰藉料
(1) 原告らは訴外恒子の父母であつて訴外恒子が本件事故で死亡するまで二〇年余に亘つて深い愛情を注いで養育してきた。訴外恒子は身心共に健やかに成長し、すでに成人にも達していたので原告らの訴外恒子に対する親としての情愛は勿論のこと将来に亘つて訴外恒子に対する期待や夢は少なからぬものがあつた。
(2) 訴外恒子は、山梨県立須玉商業高等学校を卒業後昭和四〇年四月より株式会社ユービーに事務員として勤務していた。然し将来は幼稚園の教諭となる為に昭和四二年一〇月に同会社を退職して既に昭和四三年四月一日からは訴外日本音楽学院の幼稚園教諭養成科二部(修業年限二年)の第一学年に入学することになつており、昼間は幼稚園の助手として働くべく職業安定所の紹介により訴外江北さくら幼稚園(足立区北堀之内町四〇五番地所在)に就職の為面接に行く途中で本件事故に遭遇したものである。
(3) 然るに本件事故により一瞬にして二〇年余に亘つて訴外恒子を育てあげた労苦は水泡に帰し又訴外恒子に対する期待や夢は破られてしまいその精神的苦痛は甚大なものでありその慰藉料の額は原告ら各自に金一五〇万円を以て相当とする。
(四) 訴外早川恒子の財産的損害
(1) 訴外恒子が本件事故死によつて喪失した得べかりし利益の現在額は、つぎの計算により合計金四七一万三五六八円である。訴外恒子(昭和二二年七月一三日生)は、昭和四〇年三月山梨県立須玉商業高等学校を卒業した女子で死亡当時二〇歳九ケ月であつた。我が国の二一歳の女子の余命年数は五一・三四年(生命表参照)であり残存稼働可能年数は四二年である。訴外恒子は健康体であつたから本件事故さえなかつたならば右余命年数の間生存し又右稼働可能年数の間労働者として稼働できたものである。労働大臣官房労働統計調査部作成の「昭和四二年賃金構造基本統計調査」の統計表(財団法人労働法令協会発行の賃金センサス第一巻七五頁参照)によれば旧中・新高卒以上の女子労働者の年令別平均月間定期給与額は別表A欄のとおり、また平均年間賞与その他の特別給与額は別表B欄のとおりであり、年間現金給与額は別表C欄のとおりである。したがつて訴外恒子も女子労働者として同額の給与を受けられたものである。
訴外恒子の生活費は収入額の五〇%(別表D欄)をもつて相当とすべきであるから別表C欄の年間現金給与額から生活費五〇%の類(別表D欄)を控除すると各年令別訴外恒子の年間残存利益(年間逸失利益)は別表E欄の通りとなる。
右E欄の逸失利益を別表F欄の年別ホフマン計算方式によれば訴外恒子の逸失利益現価は別表G欄の通りとなりその合計額は金四八四万〇九九三円となる。しかし訴外恒子は死亡当時二〇歳八ケ月一六日であつたから右逸失利益現価合計金四八四万〇九九三円のうちには訴外恒子が二〇歳を越えて生存していた八ケ月一六日(約九ケ月)の間の分も含まれておりそれは訴外恒子が生存中で受給できたものであるから当然控除すべきであるところ、訴外恒子の二〇歳より二四歳までの間の年間逸失利益(別表E欄)は一六万九九〇〇円也であるからこれに一二分の九を乗じた金額金一二万七四二五円が訴外恒子が二〇歳を越えて生存していた九ケ月の間の受給額となる。よつて訴外恒子の逸失利益現価合計金四八四万七四二五円を控除すると結局訴外恒子の逸失利益現価は金四七一万三五六八円となる。
(2) 原告らは、訴外恒子の父母で同人の相続人の全部であり訴外恒子が右のとおり取得した右逸失利益現価金四七一万三五六八円の損害賠償請求権の各二分の一(原告一人当り金二三五万六七八四円)を相続した。
(五) 損害の填補
以上のとおりであるが、その後、原告早川辰一は被告らから前記1の遺体運搬費および葬儀費用合計金三四万円の弁済をうけ、また、原告らは前記訴外恒子の事故死に関し、訴外日新火災海上保険株式会社から自賠法一六条に基づく損害賠償額の支払いとして金二六六万九五五〇円(原告一人当り金一三三万四七七五円)の支払を受けて、叙上の損害賠償額の各一部の弁済に充当した。
よつて、本件事故による原告らの被告に対する損害賠償額は、原告早川辰一につき金二五八万九四七五円、原告早川富美恵につき金二五三万六〇〇九円となる。
(六) 弁護士費用
被告は原告らに対し、以上の損害賠償債務を負うものであるところ、被告が任意に履行しないのでその取立を本訴原告訴訟代理人らに委任し、その着手金としてそれぞれ金五万円を支払つたほか、謝金として本件の第一審判決言渡日に原告早川辰一は金二六万三九四七円、同早川富美恵は金二五万八六〇〇円を支払うべきことを約束した。
3 よつて被告に対し、原告早川辰一は金二九〇万三四二二円およびこのうちから弁護士費用中の謝金をのぞく金二六三万九四七五円に対する本訴状送達の翌日である昭和四三年九月一一日から支払ずみまで民法所定年五分割合による遅延損害金を、原告早川富美恵は金二八四万四六〇九円およびこのうちから弁護士費用中の謝金をのぞく金二五八万六〇〇九円に対する右同日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
4 被告の主張に対する反駁
(一) 本件事故現場の路面には加害車のスリップ痕九・三メートルが印されている(乙第二号証の四)のであるが、右スリップ痕の長さによれば、加害車は本件事故当時時速四〇キロメートルの速度(秒速一一メートル)で進行していたものであり、これと自動車運転者が危険を発見してから当該車両が制動を開始するまでのいわゆる空走時間(最低一秒間)を考慮すると加害車の運転者である訴外岩崎は、加害車がスリップを開始した地点(別紙図面表示の点、以下、単に同図面上に表示した符合をもつて示す。)の約一一メートル前方、すなわち訴外恒子が進出した地点(<ア>点)の一八メートル前方(点)において同人を発見していたものといわなければならない。しかして本件事故の現場は交通整理の行なわれていない交差点内であり、同交差点の右側は訴外岩崎にとつては見とおしがきかなかつたのであるから、同訴外人には当然徐行義務(道交法四二条)があり、同訴外人において右義務を怠るところがなければ本件事故は発生しなかつたものである。同時に、訴外岩崎には、自動車運転者に課せられた交通整理の行なわれていない交差点における横断歩行者保護の義務(同法三八条二項)を怠つた過失があるというほかないのである。
(二) 仮に、本件事故の現場が交差点に当らないとしても、訴外岩崎としては、できるだけ道路の左側によつて加害車を進行させなければならない義務(同法一八条一項)があるのに、別紙図面表示のとおり幅員六・三メートルの道路の左側端から一・二メートル離れた場所で、むしろ右道路のセンターライン寄りを走行していたため訴外恒子の発見がおくれ、かつ、右発見後においても加害車の進路をさらに道路左端にとることが可能であつたにかかわらず、かかる避譲措置をとらなかつたため本件事故が発生するにいたつたものである。
(三) 以上のほか、本件事故現場の道路は、かつ右側の見とおしが困難であり、訴外岩崎としては前記対向車の間から横断歩行者の出現が当然予想し得たのである。かゝる場合訴外岩崎としては右側方向の注視につとめ減速徐行すると共に警音器を鳴らして安全を確認しつつ進行すべき注意義務があつたというべきであり、それにもかかわらず信号の現示を過信して進路前方の交通が空いていたのに気を許し漫然と進行したため、本件事故が発生したのであつて、同人の過失は否定し得ないのである。
二、被告の主張
1 自賠法三条但書の免責の抗弁
本件事故現場から約五〇メートル離れた地点には横断歩道が設置されているのに、訴外恒子はこれによることなく、加害車の直前にとび出し横断しようとしたため本件事故が発生したものである。したがつて、本件事故は、もつぱら訴外恒子の過失により発生せしめられたもので、加害車の運転者である訴外岩崎およびその運行供用者である被告には過失がなく、また、加害車には構造上の欠陥も機能の障害もなかつたものである。
2 過失相殺の抗弁
仮にしからずとするも、訴外恒子の右過失は損害賠償額の算定に斟酌せられるべきである。
第四、証拠関係〔略〕
第五、判断
一、責任原因
〔証拠略〕を総合すれば、本件事故の現場は、江北橋から環状七号線に向け南北に通ずる幅員六・三メートルのセンターラインの表示ある舗装道路と右道路に対しその西方から直交する幅員八・六メートルの舗装道路によつて形成された交差点の北側に接する地点であり、右交差点においては信号機等による交通整理も行なわれず、また、右事故発生地点は横断歩道外であつて、その附近の状況の概略は別紙図面表示のとおりであること、加害車は、右図面表示の<1>点から<3>点(以下単に符号のみをもつて表示する。)の方向に進行したのであるが、加害車進路左(西)側の前記交差道路の両側は空地であつて、その進路前方とともに見とおしは可能であり、本件事故当時その進路前方に歩行者ないし先行車両はなかつたものの、その進路右(東)側は商店が軒をつらね、かつ対向車線の停車車両によつて対向車線に歩行者があるかどうかは確認し得ない状況にあつたこと、および右事故現場の南方約五〇メートルの地点には右交差点とは別に信号機の設置された交差点があり、かつ、その外側には横断歩道が設けられていること、本件事故当時、訴外岩崎は、前記道路の左側端から約一・二メートル離れた場所を時速四〇キロメートルの速度で進行したのであるが、<1>点附近にさしかかつた際、<ア>点から<イ>点にむけ駈足で右道路を横断しはじめた訴外恒子を発見し、急制動をほどこしたがおよばず、ついに×点において加害車の右前部を訴外恒子の左下股附近に接触せしめ、同人をはねとばすにいたつたこと、以上の事実が認められ、他にこの認定を左右する証拠がない。そして、この事実と前記第二の一、二の事実を総合して考えると訴外岩崎としては、対面信号の青の現示にしたがい進行中であつたとはいえ、その進路右側の状況は前記のとおりであり、しかも歩車道の区別もなく幅員も狭い道路であるから、その附近において停車中の車両の蔭から自車進路前方を横断しようと企てる歩行者のあることは自動車運転者として当然に予測し得るところというべきであるから、見とおし可能な自車進路の左側に対してはともかく停車中の対向車両によつて見とおしをさまたげられている進路右側に対してはとくに注意を払い、不測の横断歩行者があつた場合においても直ちに停車し得るよう減速して進行し事故の発生を未然に防止すべき注意義務があつたものというべく、他方訴外恒子においても、前記のように至近に横断歩道があるのであるから、これによつて横断すべく、仮に横断歩道があることを知らなかつたとしても、車道をしかも停車中の車両の蔭から出て横断するのであるから、加害車の進路に足を踏み出す前に進行車両の有無を確め、至近に進行車両を認めた場合においてその通過をまつて横断を開始すべき注意義務があつたというべきである。本件事故は、訴外岩崎、同恒子がいずれも右の注意義務を怠つた同人らの過失によつて発生したものと認めるのが相当であり、この両者の過失割合は、大むね訴外岩崎五に対し訴外恒子五と認めるのが相当である。
以上のとおりであつて、訴外岩崎に過失が認められる本件にあつては、被告の自賠法三条但書所定の免責の抗弁は、爾余の判断を用いるまでもなく失当であつて、被告は同法三条本文の規定により本件事故により原告らに生じた損害を賠償すべき義務がある。
二、損害
1 原告らの財産的損害
(一) 原告早川辰一の主張する財産的損害のうち訴外恒子の入院中の雑費、同遺体の運搬費および葬儀費用については、〔証拠略〕を総合すれば、同原告が訴外恒子の本件事故による受傷並びに死亡によりその主張のとおりの出捐を余儀なくされた事実が認められるけれども、右のうち、遺体運搬費および葬儀費用の合計金三四万円は、すでに同原告において被告から弁済を受けたことは同原告の自陳するところであり、また右入院中の雑費金五万〇六六六円中には、前記甲号各証と弁論の全趣旨によれば訴外恒子が入院中死亡するまでの間に使用した「おむつ代」、近親者への通信費およびその交通費等必要と見られる出費のほか、医師、看護婦等に対する謝礼合計金七〇〇〇円、世話になつた人に対する謝礼金一万円、その他日用品雑貨の購入費約七〇〇〇円が含まれているものと認められこれらの全額をもつて本件事故と相当因果関係ある支出とはなし得ないのであるけれども、訴外恒子のごとき頻死の重傷者を出した場合、近親者として右のごとき出費をすることは、ある程度やむを得ないことと認められるから、これらの事情を考慮し、右金五万〇六六六円のうち、金三万五〇〇〇円をもつて本件事故と相当因果関係ある損害と認める。
(二) 原告らの休業損害(第三、一、2、(一)、(4)、および(二)、)については、原告らが訴外恒子の入院、葬儀等により休業を余儀なくされたことは、原告早川辰一本人尋問の結果と弁論の全趣旨によつて認定することができるけれども、その結果原告らが喪失した得べかりし利益の額については、同原告本人尋問の結果のみによつてこれを確認することができないので、本件事故による訴外恒子の入院、死亡により原告らが右のごとく休業せざるを得なかつた事情を、つぎの原告らの慰藉料の算定に際し斟酌するにとどめる。
2 原告らの慰藉料
〔証拠略〕によれば、訴外恒子は原告らの三女であり、これと以上の諸事実並びに後記認定の事実その他諸般の事情を斟酌すれば、訴外恒子の本件事故死によつて蒙つた精神的苦痛を慰藉すべき金額は、原告らに対しそれぞれ金八〇万円と認めるのが相当である。
3 訴外恒子の財産的損害
(一) 〔証拠略〕によれば、訴外恒子は昭和二二年七月一三日生れで本件事故当時二〇才八月の健康な女性であつたことが認められ、これと次段において認定する事情を合わせ考えると同人は、本件事故に漕遇しなければその平均余命の範囲内において、すくなくとも二一才から六〇才までの四〇年間は稼働可能であつたものと認められる。そこで、訴外恒子の収益について調べて見るに、〔証拠略〕を総合すれば、訴外恒子は山梨県立須玉商業高等学校を中位の成績をもつて卒業後、訴外国際特許サービスに勤務して日収金八〇〇円を得ていたのであるが、もともと幼稚園の教諭になることが希望で、昭和四三年二月に日本音楽学校幼稚園教諭養成科第二部(夜間部)に入学を許されたのを機会に同年三月二〇日をもつて右国際特許サービスの勤務を辞め、かつ、昼間の仕事として職業安定所から訴外桜幼稚園助手の職を紹介され、右幼稚園に赴く途中本件事故に遭遇したものであつて、右事故当時未婚であつたことが認められる。そして、右事実と労働省労働統計調査部編「賃金センサス(賃金構造基本統計調査)」昭和四二年度第一巻によれば、訴外恒子は本件事故に遭遇しなければ、右統計が示す平均値である月間給与金二万二四〇〇円と賞与その他の特別給与として年間金七万一〇〇〇円、年間合計金三三万九八〇〇円を下ることない収入を挙げ得たものと認められ、これから同訴外人の生計費として原告らが自陳する右収入の二分の一を控除した金一六万九〇〇〇円の年間純利益を挙げ得たものと認められる。なお、訴外恒子のごとき未婚の女性が一定の年令に達した場合結婚のため退職し、以後もつぱら家事労働のみに従事するにいたるがごときは、極めて通常の事態であり、そのような場合においては通常の意味における逸失利益を考えることはできないのであるけれども、家事労働に従事する者の稼働能力の経済的価値を測定し、右逸失利益に準ずる損害を算定することは可能であり、訴外恒子のごとく就職経験を有する場合にあつては、就職時における収入を参酌してその稼働能力を見積るのが相当である(当庁昭和四二年一二月六日判決・判時五〇一・五八参照)から、本件の場合にあつても、前記訴外恒子の稼働期間を通じ、同人は年間金一六万九〇〇〇円の純利益を挙げ得たものとしてその損害を算定する。
原告らは、訴外恒子の年令の増加にしたがい右純利益も増加する旨主張するけれども、これを裏づけるに足りる資料はなく、また、以上説示の訴外恒子の損害算定の理由に照らし、この主張は採用しない。
そして、以上に基き、訴外恒子の財産的損害の現価を算定すれば、次式の示すとおり合計金三六五万七九五五円となる。
16万9000円×21.6426=365万7955円
ただし、二一・六四二六は、法定利率年五分、年数四〇の単利年金現価指数
(二) 本件事故の発生につき訴外恒子の過失が寄与していることは前記認定のとおりであり、これを斟酌すれば、右訴外恒子の財産的損害のうち、被告の賠償の責に帰すべき金額は金一八〇万円と認めるのが相当である。そして、原告らが訴外恒子の父母であることは前判示のとおりであるから、原告らはその相続人として右金一八〇万円の各二分の一の金九〇万円をそれぞれ相続したこととなる。
4 損害の填補
以上のとおりであつて、原告らが本件事故により被告に対して取得した損害賠償債権額は、原告早川辰一につき、前記1ないし3の合計金一七三万五〇〇〇円、原告早川富美恵につき同2、3の合計金一七〇万円となるのであるが、原告らが右事故を理由とし自賠法一六条に基づく損害賠償額の支払として、それぞれ金一三三万四七七五円の支払を受けたことは、いずれもその自認するところであるから、前記各金額からこれを控除すれば、その残額は原告早川辰一につき金四〇万〇二二五円、原告早川富美恵につき金三六万五二二五円となる。
5 弁護士費用
〔証拠略〕を総合すれば、原告らは被告に対する本訴損害賠償債権の取立を本訴原告訴訟代理人らに委任し、その主張のとおりの着手金を支払い、かつ、本件の第一審判決言渡日に判決における認容額の各一割を報酬として支払うべき旨約した事実が認められるけれども、叙上の認容損害額、本訴の推移その他諸般の事情を考慮すれば、被告の賠償すべき弁護士費用の額は原告らが支払つた着手金のうちのそれぞれ金四万円をもつて相当と認める。
三、よつて、本訴請求は被告に対し、原告早川辰一において金四四万〇二二五円およびこれに対する本訴状送達の翌日である昭和四三年九月一一日から、原告早川富美恵に対し金四〇万五二二五円およびこれに対する右同日から、いずれも支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当であるからこれを認容し、その余の請求を失当として棄却する。そのほか、民訴九二条、一九六条の各規定を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 原島克己)
別紙図面
<省略>
〔別表〕
<省略>